イングランド建国秘話:傭兵兄弟が仕掛けた「大どんでん返し」の物語

ちょっと想像してみてください。

あなたが国のトップだとして、「敵をやっつけてくれる助っ人」を外国から雇ったとします。彼らはめちゃくちゃ強くて、期待通りに敵を蹴散らしてくれました。「いい仕事してくれるな」と気を良くしたあなたは、彼らにご褒美として土地を分け与えます。

……そして数年後、その助っ人に国を乗っ取られる。

これ、フィクションの話ではありません。5世紀のブリテン島(今のイギリス)で実際に起きた(と伝えられている)事件です。主役は、ヘンギストとホルサという名の兄弟。今回は、この2人がどうやってイングランド最初の王国を築き上げたのか、そのドラマチックすぎる顛末をゆる〜く紹介します。

まずは1分の動画で、ざっくり流れをつかみたい方はこちらをどうぞ。

混乱の時代にやってきた「傭兵兄弟」

時は5世紀。ローマ帝国がブリテン島から撤退したあと、島は治安が乱れ、大混乱に陥っていました。そんな中、北欧やドイツ北部から海を渡ってやってきたのが、アングル人・サクソン人・ジュート人と呼ばれる人々です。

海を渡ってブリテン島に上陸するヘンギストとホルサの一行

その中でもひときわ目立つ存在だったのが、ジュート人のヘンギストとホルサ兄弟。伝説によれば、彼らの先祖はなんと北欧神話の神様(オーディン)にまでさかのぼるという、由緒正しき血筋の持ち主だったとか。

故郷では人口が増えすぎて土地が足りなくなっていたこともあり、兄弟は「新天地でひと旗あげよう」と、船に乗ってブリテン島へと向かいます。

ピンチのブリトン王、傭兵にすがる

ちょうどその頃、ブリテン島を治めていた王ヴォーティガンは大きな悩みを抱えていました。北方から攻めてくるピクト人やスコット人に、ずっと苦しめられていたのです。

そこに現れたのが、船3隻を率いたヘンギストとホルサ。「これは頼もしい」とヴォーティガンは彼らを傭兵として雇い入れます。期待に応え、兄弟は見事にピクト人を撃退。お礼として、ヴォーティガンは彼らにサネット島という土地を与えました。

ここまでは、いわば「Win-Winの良い関係」。しかし物語はここから急展開していきます。

次の一手をささやき合うヘンギストとホルサ

「娘の色仕掛け」で領地をゲット

信頼を勝ち取ったヘンギストは、「もっと仲間を呼んでもいいですか?」とヴォーティガンに許可をもらいます。そして仲間と一緒に、彼の娘ロウェナもブリテン島にやってきました。

宴の席でヴォーティガン王に酒を注ぐロウェナ

ある宴の席で、ロウェナがヴォーティガン王にお酒を注ぎます。すっかり彼女に魅了されてしまった王は、なんと結婚を望むように。ヘンギストはこのチャンスを逃しません。「娘との結婚の代わりに、ケント地方をください」と要求し、まんまと広大な領地を手に入れてしまうのです。

まさに、恋を利用した政治的取引。ずる賢いというか、商売上手というか……。

その後、ヴォーティガンの息子が「父はサクソン人に譲歩しすぎだ!」と反発して戦争が勃発。この戦いで弟ホルサは命を落としてしまいますが、兄ヘンギストは生き延び、さらに大きな一手を打ちます。

「剣を取れ!」——和平の宴で起きた大惨事

弟を失ったヘンギストが次に企てたのは、なんとも恐ろしい計画でした。

「和平交渉をしましょう」と持ちかけて開かれた宴の席。ヘンギストは仲間のサクソン人たちに、こっそり長い短剣を忍ばせておくよう命じていました。

そして宴もたけなわという頃、ヘンギストが叫びます。

「剣を取れ!」

和平の宴で合図を待つ、短剣を隠したサクソン人たち

その合図とともに、サクソン人たちは一斉にブリトン人貴族へ襲いかかりました。この「長いナイフの陰謀」と呼ばれる事件で、なんと460人ものブリトン人貴族が命を落としたと伝えられています。ヴォーティガン王だけは必死に命乞いをして助かりましたが、その代わりさらに多くの領地をヘンギストに差し出す羽目になりました。

和平の宴のはずが、まさかの騙し討ち。この一件をきっかけに、サクソン人はブリテン島のあちこちで勢力を広げていくことになります。

こうして生まれた「ケント王国」

弟ホルサを失いながらも、ヘンギストはブリテン島南東部にしっかりと拠点を築き上げ、ついに「ケント王国」を建国します。これが、ブリテン島に生まれた最初のアングロ・サクソン系の王国だとされています。

ちなみにこのケント、後にカンタベリーを中心として栄え、イギリスにキリスト教が広まっていく重要な拠点にもなっていきます。

おわりに:伝説と史実のはざまで

ヘンギストとホルサの物語、いかがでしたか?

助っ人として雇われたはずが、いつのまにか国を乗っ取ってしまう——まるで海外ドラマのような急展開ですよね。もちろん、この話には伝説的な脚色も多く含まれていて、どこまでが史実かは今もはっきりしません。

それでも、「弱った王国に外から来た者たちが入り込み、やがて主導権を握っていく」というこの構図は、その後のイギリスの歴史を占うような、なんとも象徴的な出来事だったと言えるでしょう。

一杯のワインと一振りの短剣が、イングランドという国の始まりを作った——そう考えると、歴史ってやっぱり面白いですね。

この物語は YouTube のショート動画 でも1分にまとめています。よければそちらもご覧ください。

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